モジュールV 紛争後の和解とトラウマ・ケア

1.ねらい

紛争後の和解とトラウマ・ケアを平和構築活動として位置づけ、それらに関する基礎的知識および、実際に用いることができる心理ケアの実践的手法を習得することを目的とする。
 戦争によるトラウマ問題が指摘されて久しいが、人々が苦しむ心の傷が、必ずしも臨床心理学的に、或いは精神医学的にみて厳密に「心的外傷−トラウマ」と診断されるものであるとは限らない。本モジュールでは、国際救援活動の分野で援助対象とされている心理的諸問題が、所謂「トラウマ」という用語で広く了解されている現状を考慮し、心理学的トラウマを中心に据えつつ、紛争による心理的不適応全般を「トラウマ」と総称して進めていく。 ユニット1では、まずそもそもトラウマと何か、という点について解説を行う。ユニット2では、トラウマ・ケアを和解の作業と重ね合わせて、その平和構築における位置づけを明らかにする。ユニット3はワークショップ形式で行い、非専門家の人々が留意すべきトラウマ問題についての知識及び具体的な対処法を実践的に習得することを目指す。

2.到達目標

  • トラウマ問題について基礎的知識を得る。
  • トラウマ・ケアから和解への平和構築の流れを理解する。
  • 基礎的で実践的なトラウマ・ケアの手法を会得する。

3.構成と各ユニットの概要

  • ユニット1:トラウマとその影響
  • ユニット2:トラウマ・ケアと和解への道
  • ユニット3:和解とトラウマ・ケアの実践的手法

(1)ユニット1
ユニット1では、トラウマに対する実践的な対処法の前提となる基礎的な理解を得ることを目標とする。まず、そもそもトラウマ問題と呼ぶべきものは何であるのかについて、その基本的な性質を学ぶ。次に、トラウマの症状について、基礎的な知識を得る。そして、紛争後社会で特有のトラウマ問題にはどのようなものがあるのかについて概観し、その特性と言うべきものについて学んでいく。

<構成>
1-1 トラウマ問題の性質
1-2 トラウマによる症状
1-3 紛争後社会のトラウマ問題
1-4 紛争後社会のトラウマ特性

<目標>
  • トラウマ問題の基本的性質を理解する。
  • トラウマの症状について理解する。
  • 紛争後社会に特有のトラウマ問題の性質を理解する。

(2)ユニット2
ここでは、紛争後社会に見られるトラウマ問題に特に焦点をあて、その対処法として考えられるものを概観する。その過程で、コミュニティにおけるトラウマ・ケアの重要性を強調する。さらにトラウマ・ケアの手法を用いて和解を達成しようとする試みについて紹介する。

<構成>
2-1 紛争後社会のトラウマ・ケア
2-2 紛争後社会のトラウマ・ケア・プログラム
2-3 コミュニティのトラウマ・ケア
2-4 和解促進への心理学的アプローチ

<目標>
  • 平和構築の観点から紛争後社会のトラウマ・ケアのあり方を理解する。
  • 平和構築の観点からコミュニティ単位で実施できるトラウマ・ケアの方法を理解する。
  • トラウマ・ケアの手法で和解を導きだそうとする試みについて理解する。

(3)ユニット3
本ユニットは、必ずしもトラウマ・ケアの専門家ではないが、学校や行政上の業務の遂行にあたって、トラウマ問題に対処する必要があるような、平和構築を様々な形で実践する参加者を想定し、和解という大きな目標を設定しつつ、具体的なトラウマ・ケアの実践方法を、体験的に学習していくためのものです。一人でできるストレス対策、自己理解・他者理解のグループワーク、芸術療法、コミュニティ形成作業などを、選択的に行っていくことを想定しています。トラウマ・ケアについての基礎的知識を有意義に生かして、自国の事情を踏まえた形での実践あるいは政策立案をする技能 を、ワークショップを通じて研修員に習得してもらうことを目的としています

<目標>
 ユニット1・2に関係するトラウマ・ケア関連活動の立案・分析・評価などの手法を実践的に会得する。